ヴィンテージスカジャンを見るとき、刺繍と並んで気になるのがフロントジッパーです。
「TTSなら古い?」「YKKが付いていたら後年物?」など、刻印から年代を知りたくなるところですが、結論から言えば、ジッパーは年代を考える有力な手掛かりではあるものの、刻印一つで製造年が決まるわけではありません。
今回は、ヴィンテージスカジャンで見かけるジッパーの構造と代表的なメーカー、年代判別に使う際のポイントを紹介します。
スカジャンのジッパーは、なぜ表裏から使えるのか
ヴィンテージスカジャンの多くはリバーシブル仕様です。そのためフロントには、どちらの面を表にしても操作できるジッパーが使われています。
代表的な構造は「バタフライ式」と「回転式」の二つです。
※以下の画像は、実物写真の形状を参照して編集部が生成AIで制作した参考イラストです。実物写真ではなく、刻印や細部を完全に再現したものではありません。
バタフライ式
スライダーの表裏に一枚ずつ引手を備えたタイプです。二枚の引手が羽のように見えるため、ヴィンテージ市場では「バタフライ」と呼ばれています。

YKKの現行カタログでは、同じ構造を「両面スライダー」と説明しています。テーラー東洋も、当時の構造を再現した二枚引手を “Butterfly zipper” と表記しています。
回転式
一枚の引手を反対面へ回して使うタイプです。YKKの現行分類では「リバーシブルスライダー」にあたり、一枚の引手が回転レールに沿って移動する構造と説明されています。

どちらもリバーシブル衣料のための構造で、バタフライ式にも回転式にも複数のメーカーと形があります。方式だけで年代の古い・新しいが決まるわけではありません。
出典: YKK FASTENING CATALOGUE、YKK「両面・回転スライダー使用上のご注意」、テーラー東洋「TT14755」
引手だけではない|確認したいジッパーの部位
刻印は多くの場合、引手に入っています。ただし、ジッパーを見るときは周辺の部品も一緒に確認すると、その個体の作りがより分かります。

| 部位 | 見るポイント |
|---|---|
| 引手 | メーカー刻印、形、表裏、金属色 |
| スライダー | バタフライ式か回転式か、引手との組み合わせ |
| エレメント(務歯) | 金属、歯の形や大きさ |
| テープ | 素材、色、身頃への縫い付け |
| 箱・蝶棒 | 裾側の開具。形、金属色、噛み合わせ |
YKKのカタログやJIS S 3015でも、スライダー、引手、エレメント、テープ、箱、蝶棒などの名称が整理されています。
出典: YKK FASTENING CATALOGUE、JIS S 3015:2019 プレビュー
「手曲げ」からエンドボックスへ|裾側にも時代差がある
引手だけでなく、ジッパー下端の開具も見ておきたい部分です。
CLUTCHMAN TVの解説動画では、初期のスカジャンに見られるエンドを「手曲げ」と呼び、爪のある金属板をペンチで挟み込んで取り付ける構造として紹介しています。動画中の説明では、このタイプは1950年代中期頃まで見られ、その後は四角い「エンドボックス」と棒状の差し込み部を備えた形へ移っていったとされています。
また、テーラー東洋の港商スペシャルエディションでは、初期型と同様のエンドを手作業で再現している例も紹介されています。したがって、古い形のエンドがあるだけで当時物とは断定できません。 メーカー差や個体差も考慮し、引手、スライダー、務歯、縫製、ボディ全体と合わせて判断するのが安全です。
動画資料: CLUTCHMAN TV「スカジャン研究家、ヴィンテージのファスナーを語る!」(エンドの解説は4分22秒頃から)
ヴィンテージスカジャンで見かける代表的なメーカー
日本製ヴィンテージスカジャンでは、次のような刻印がよく知られています。
| 刻印・通称 | 一般に紹介されるメーカー名 | 確認される主な方式 |
|---|---|---|
| YKK | 吉田工業 | バタフライ式、回転式 |
| TTS | 東京寺西商店/商会 | バタフライ式、回転式 |
| SPEED | 川源商店/商会 | バタフライ式、回転式 |
| CHERRY | 桜金属 | 主にバタフライ式の実物例 |
| ミツワ | 津田商会 | 主にバタフライ式の実物例 |
このほかにもNo.1、YA、OFS、STF、TOYO、CN、NBKなど、多数の刻印が確認されています。
実物写真を見比べる資料としては、ヴィンテージ店ROUTE44の「日本のメーカー一覧」が非常に充実しています。YKKだけでも引手の形、文字、素材、バタフライ式・回転式の違いがあり、SPEEDにも多くのバリエーションが掲載されています。
実物資料: ROUTE44「日本のメーカー一覧」
ただし、TTSの正式社名表記や各社の操業期間など、ネット上で広まっている情報の中には一次資料で確認しにくいものもあります。刻印から製造年を一点に絞るより、まず「1950年代のスカジャンに見られる国産ジッパーの一例」と捉えるのが安全です。
「YKKなら新しい」は間違い
YKK公式沿革によると、前身のサンエス商会は1934年創業。1946年1月には商標を「YKK」としています。一方、日本で「YKK」の商標を取得したのは1953年と、別の公式資料に記録されています。
つまり、商標を使い始めた年と、商標登録を取得した年は別です。「1953年に商標登録されたから、YKK刻印はすべて1953年以降」と単純には区切れません。
専門店の実物記録にも、YKKバタフライジッパーを備える1950年代推定のスカジャンがあります。YKKだからヴィンテージではない、という判断は避けたいところです。
一次資料: YKK「沿革」、YKK「数字でまるっとYKK」
実物記録: BerBerJin「50's ビンテージ スカジャン/YKKバタフライ」
ジッパーから年代を見る3つのポイント
1.刻印と方式を確認する
まず引手の表裏を見て、YKK、TTS、SPEEDなどの刻印を記録します。次にバタフライ式か回転式かを確認しましょう。
刻印名だけでなく、引手の形や文字の配置も写真に残しておくと、実物資料と比較しやすくなります。
2.ジッパー一式を見る
引手だけでなく、スライダー、務歯、テープ、箱、蝶棒まで見ます。素材や形が自然に組み合わさっているか、リバーシブル用として正しく機能するかを確認してください。
交換を過度に疑う必要はありません。ただ、テープ脇に明らかな二重の縫い跡がある、引手だけ極端に新しいなど、目立つ違和感があれば修理歴を確認する程度で十分です。交換歴があっても、それだけで偽物という意味にはなりません。
3.刺繍・生地・リブと照合する
最も大切なのは、ジッパー単独で判断しないことです。
刺繍された地名や年号、ボディの素材、リブ、ポケット袋、縫製などから考えた年代と、ジッパーが矛盾していないかを見ます。ジッパーは年代を決める「答え」というより、全体の年代感を補強する材料です。
専門店の商品アーカイブでは、1950年代推定の個体にSPEED、TTS、YKKなど複数のメーカーが確認できます。同じ年代のスカジャンでも、使われるジッパーは一種類ではありません。
実物記録: BerBerJin/SPEED、RUMHOLE beruf/TTS、AnchoR Vintage/回転式SPEED
復刻品にも古い構造のジッパーが使われる
現在の復刻スカジャンにも、ヴィンテージをもとにしたジッパーが使われています。
テーラー東洋は、TTS、SPEED、CHERRYなど1950年代中期頃までの日本製ジッパーをもとに、バタフライ式の引手、コットンテープ、エンドボックス、刺し棒まで再現していると公式に説明しています。

そのため、古い形のジッパーが付いていることだけで当時物とは判断できません。復刻品ならブランドタグや品質表示も含めて見れば、通常は区別できます。
まとめ|ジッパーは年代判別の有力な補助線
ヴィンテージスカジャンのジッパーには、バタフライ式と回転式があり、YKK、TTS、SPEED、CHERRY、ミツワなど多様な国産メーカーが確認されています。
見る順番は、刻印と方式→ジッパー一式→ジャケット全体との整合性。これだけ覚えておけば、刻印一つに振り回されず、その個体を落ち着いて観察できます。
そして、ジッパーと並ぶ年代判別の手掛かりが図案です。地名、年号、部隊名、地図、基地やPXが存在した時期を照合すると、別の方向から年代を考えられます。
次回の「ヴィンテージスカジャン年代判別シリーズ」では、図案・地名・部隊・PXから年代を読む方法を取り上げます。
主な参考資料
- YKK株式会社「沿革」
- YKK「数字でまるっとYKK」
- YKK「ファスナーのきほん」
- YKK FASTENING CATALOGUE
- JIS S 3015:2019「スライドファスナ」
- 横須賀美術館「スカジャン展」
- テーラー東洋「TT14755」
- ROUTE44「日本のメーカー一覧」
- HINOYA「色々なジッパー」
- CLUTCHMAN TV「スカジャン研究家、ヴィンテージのファスナーを語る!」
画像について
- 構造参考イラスト3点:テーラー東洋・HINOYA掲載の実物写真を形状の参考とし、スカジャンラバー編集部が生成AIで制作。実物写真ではなく、刻印や細部を完全に再現したものではありません
- 復刻バタフライ式ジッパー:テーラー東洋公式記事から出典・リンクを明示して引用

